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大阪高等裁判所 平成2年(行コ)34号 判決

控訴人 寺本賢

右訴訟代理人弁護士 吉原稔

同 高見澤昭治

被控訴人 湖東広域衛生管理組合管理者 中川泰三

右訴訟代理人弁護士 石原即昭

同 宮川清

同 中川幸雄

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  控訴の趣旨

1  原判決を取消す。

2  被控訴人が、控訴人の昭和六二年六月八日付で行った浄化槽清掃業許可申請及び浄化槽汚泥収集運搬業許可申請に対して、同年七月一四日付で行った各不許可処分を取消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

次に訂正、付加するほかは、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の訂正

1  原判決七枚目表一二行目の「のうち」から同一三行目の「その余の事実」までを削除する。

2  同七枚目裏一二行目の「従って」から同八枚目表二行目末尾までを削除する。

3  同八枚目裏一二行目冒頭の「できず、」を「できない。」と改め、同行の「運搬業許可申請」から同九枚目表二行目末尾までを削除する。

二  控訴人の主張

1  本件区域(湖東広域衛生管理組合(以下単に「組合」という)を構成する滋賀県愛東町、湖東町、秦荘町、愛知川町、豊郷町、甲良町、多賀町の七町)における浄化槽汚泥は、将来減少することはなく、増加するものと見られる。すなわち、滋賀県生活環境部環境事業課平成二年三月発行の「滋賀県の廃棄物」(〈証拠〉)によれば、平成二年三月現在の同県下の浄化槽設置基数は、四万八五八五基であって、昭和六一年度の四万二六八八基と比較すると、四年間で五八九五基、一四パーセントも増加しており、この傾向は、本件区域でも同じであるから、浄化槽の設置数は著しい増加傾向ということができる。

その一方で、滋賀県土木部発行の平成二年版「滋賀県の下水道事業」(〈証拠〉)によれば、平成元年の管渠延長は一六・五キロメートルで、年平均五キロメートルしか進展せず、特に多賀第一幹線は、平成元年度予定は〇・四キロメートルしかなく、同年度でようやく一・八キロメートルしか完成しないという遅々とした進み方であるから、浄化槽の設置数は、減少どころか、むしろ増加傾向が顕著である。

2  被控訴人の主張(原判決五枚目表一行目から六行目まで)によれば、本件運搬業不許可処分の理由は、「今後し尿及び浄化槽汚泥収集運搬量は確実に減少することが見込まれる。」とし、「このような状況の中で、新規業者の営業を許可することは、将来、し尿及び浄化槽汚泥の収集運搬事業の縮小等に伴う補償費用の出費を余儀なくされることになり、組合の財政に多大な負担を課することになる。」ということにあり、決して「し尿及び浄化槽汚泥の収集運搬量の急激な増加を予測することが困難である。」からではない。

したがって、「今後、し尿及び浄化槽汚泥の収集運搬量の急激な増加を予測することが困難」であっても、それは、「今後し尿及び浄化槽汚泥収集運搬量は確実に減少することが見込まれる」のではなく、また、「将来、し尿及び浄化槽汚泥の収集運搬事業の縮小等に伴う補償費の出費を余儀なくされることになり、組合の財政に多大な負担を課することになる。」ことが認められるものでもないから、被控訴人の本件運搬業不許可処分の判断過程が誤っていたことになり、右不許可処分は、取り消されるべきである。

3  仮に、し尿及び浄化槽汚泥の収集運搬量の急激な増加を予測することが困難であるとしても、それがただちに「本件運搬業許可申請が処理計画に適合しない。」ということにはならない。

もし、「既存四業者の過去の実績に照らし、本件区域内のし尿及び浄化槽汚泥の収集運搬が支障なく実行できる。」ということだけで、「本件運搬業許可申請が処理計画に適合しない。」とするのであれば、仮にその収集運搬量の急激な増加が予想される場合でも、既存四業者がこれに応じた収集運搬の体制をとることはいくらでも可能であるから、永久不変に新規の運搬業許可申請は不許可とされることになり、このようなことは、あまりにも既存業者の立場を重視するものであって、不合理である。

自由主義経済体制の下では、地方自治体も競争原理をできるだけ取入れることが必要不可欠であり、一方、し尿浄化槽清掃業の許可処分が羈束裁量である以上、「本件区域内のし尿及び浄化槽汚泥の収集運搬が支障なく実行できる。」か否かを検討するのは当然として、それは、本件運搬業許可申請を許可すれば支障が生じ、これを却下して初めて、「本件区域内のし尿及び浄化槽汚泥の収集運搬が支障なく実行できる」と判断した場合にのみ、右申請を不許可とすることが許されるものと解すべきである。

その意味から、控訴人にとっても、既存四業者にとっても、何ら「支障」が生じないにもかかわらず、控訴人の本件運搬業許可申請を不許可にしたことは、仮に運搬業の許可が自由裁量であるとしても、その裁量権を誤って行使し、あるいは濫用した点で違法というべきである。

4  また、既存四業者の過去の実績も、決して本件区域内のし尿及び浄化槽汚泥の収集運搬が支障なく処理されてきたというものではなく、住民からの多くの不平、不満があり、かつ、住民に多大な負担をもたらしたものである。

第一に、既存四業者間で担当区域割りをしているため、各業者による地域独占が定着し、住民による業者選定の自由が失われ、契約自由の原則が蹂躙されているから、必然的に業者の力が強くなり、年末やお盆休みなど早くから申し込みをしているのに来てくれないとの苦情が寄せられている。

第二に、料金の面では、浄化槽清掃については、条例で料金が決定されず、業者の料金決定が基本的に自由であるため、地域間、業者間で不均衡が著しく、また、し尿汲み取りの料金は、組合の議会で条例として決定されるものの、料金値上げ申請に対しては、これに応じないと、業者の方で汲み取り拒否宣言をする虞れがあるので、ほとんど値上げ申請がそのまま認められることになっている。

このような実情から、特に控訴人の居住する甲良町では、同町在住の地元業者に新規の許可を与え、住民サービスを向上させてほしいという要望が多く寄せられているのが実情である。

5  営業の自由は、憲法二二条によって保障される基本的人権であり、し尿浄化槽清掃業についても、営業の自由が保障されるべきものであるのみならず、浄化槽清掃業の許可については、浄化槽法三六条において、客観的な技術上の基準に適合することと、欠格事由に該当しないことを許可要件としているが、市町村は、右要件を充足している限り、必ず許可すべき拘束を受けるものと解されている。

そうであるとすれば、し尿浄化槽の清掃に必然的に伴う汚泥の収集運搬業についても、営業の自由を保障した憲法の精神に従って、法の許す限りこれを許可すべきであり、抽象的、観念的な法解釈や既存業者の既得権保護の目的から、控訴人の許可申請を不許可とすることは、憲法二二条に違反し、許されない。

また、し尿浄化槽の設置者は、実際上、自らその清掃や、清掃によって生ずる汚泥の運搬処理ができないため、これを業者に委託するものであるところ、前述のように、既存業者が地域割で浄化槽設置者との契約を独占している実情においては、どのような不都合、不満があっても、その特定の業者に依頼するしかない。そのため、浄化槽が満杯になり、早く処理してほしいと思っても、業者の都合で来てもらえなかったり、もっときれいに清掃してほしいと思っても、その業者のやり方でしか清掃してもらえず、料金の決定も業者の自由に委ねられている。

このようなことは、国民としての幸福追求の権利や、健康で文化的な生活を営む権利を侵害するものであり、本件各不許可処分は、憲法一三条、二五条に違反し、無効である。

三  控訴人の主張に対する認否と反論

1  いずれも争う。

2  組合は、昭和五五年以来既存四業者に許可を与え、し尿および浄化槽汚泥の収集、運搬業務に従事させてきたが、四業者は、これまで人的、物的設備に大きな変動なしに右業務を行ってきており、住民からの苦情もなかったものであり、このような状況の中で新規業者の申請を許可することは、既存四業者の経営を圧迫する結果、業者間に過度の競争を招来し、生活環境の確保と公衆衛生の推進を阻害するおそれがあることから、右四業者に許可を与えて、し尿および浄化槽汚泥の収集、運搬をさせるとの昭和六二年度の処理計画が策定されたものである。

処理計画の変更ないし改定は、業者数を変更するだけに止まるような単純なものではなく、組合を構成する七町との協議、管内住民への周知徹底等を要し、搬入量を根本的に見直す必要があり、特に一二月度においては搬入量が貯留槽の容量および処理能力を大幅に超過するおそれがあり、また、既存業者のバキューム車等の設備更新計画および従業員数の見直し、収集量の変更に伴う経営上の問題等の検討をする必要がある。

被控訴人は、昭和六二年度の処理計画に適合しないものとして、本件不許可処分をしたものである。

右昭和六二年度処理計画は、し尿及び浄化槽汚泥の収集運搬量の急激な増加を予測していないが、仮にその急激な増加が予測される事態になれば、毎年の改定期にその都度検討されることになるけれども、組合の年度別処理量の推移を見ると、昭和六三年までは増加傾向にあったが、平成元年度は昭和六三年度より減少している。

第三証拠〈省略〉

理由

一  被控訴人は、滋賀県湖東地域の愛知郡および犬上郡内の愛東町、湖東町、秦荘町、愛知川町、豊郷町、甲良町、多賀町の七町(本件区域)が、各地域におけるし尿処理に関する事務を共同して行うことを目的として設立した一部事務組合である湖東広域衛生管理組合の管理者であること、控訴人は、昭和六二年六月八日付で、被控訴人に対し、浄化槽法三五条に定める浄化槽清掃業の許可申請(本件清掃業許可申請)および廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)七条に定める浄化槽汚泥収集運搬業の許可申請(本件運搬業許可申請)を行ったが、被控訴人は、同年七月一四日付で右各申請につき不許可処分を行ったこと、控訴人は、その頃右清掃業許可申請に対する不許可処分(本件清掃業不許可処分)を知ったので、同月二七日付で、被控訴人に対し、本件清掃業不許可処分に対する異議申立てをしたが、被控訴人は、同年九月一七日付で右異議申立を棄却し、控訴人は、昭和六三年二月二二日頃、右異議申立棄却と本件運搬業許可申請に対する不許可処分(本件運搬業不許可処分)を知ったこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二  右争いがない事実のほか、〈証拠〉によれば、以下の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

1  控訴人は、組合の区域内で浄化槽清掃業を営もうとして、昭和六二年六月八日付で、被控訴人に対し、浄化槽法三五条に定める浄化槽清掃業の許可申請(本件清掃業許可申請)をするとともに、浄化槽清掃業をする場合、浄化槽より生ずる汚泥の運搬、収集をすることが必要であるところから、そのための廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)七条に定める浄化槽汚泥収集運搬業の許可申請(本件運搬業許可申請)を併せて行った。

2  そこで、被控訴人は、同月一〇日に、組合の管理者、副管理者会(管理者である被控訴人と、組合を構成する七町のうち、被控訴人の属する多賀町を除くその余の六町の町長である副管理者をもって構成する会議)を、同月一九日に、組合の議会、総務および建設各常任委員会の正、副委員長、副管理者らによる合同会議を、それぞれ開催して審議し〈証拠〉、更に、組合の処理計画、し尿等の収集、処理の状況、住民からの苦情の有無、既存四業者の意向等について検討したうえ、同年七月一四日付で控訴人の右各申請につき不許可処分を行った。

3  被控訴人の控訴人に対する右同日付の不許可通知書〈証拠〉では、右清掃業許可申請に対する不許可処分(本件清掃業不許可処分)のみを掲記し、その理由として、本件区域内では、昭和五五年以来、し尿浄化槽清掃業者四社によって浄化槽の清掃を行ってきており、右四社は、本件区域内のし尿浄化槽の清掃をする十分な施設と能力を備えているので、新規業者の申請を許可することは、既存業者の経営を圧迫する結果、業者間の過度の競争により、生活環境の確保と公衆衛生の推進を阻害するおそれがあるため、と記載してあった。

4  そこで、控訴人は、同月二七日に、被控訴人に対し、行政不服審査法に基づく異議の申立をしたが、これに対し、被控訴人は、同年九月一七日付の「浄化槽清掃業の許可申請による不許可に対する異議の申し立について」と題する文書〈証拠〉を控訴人に送付した。右文書の内容は、前記同年七月一四日付不許可通知書記載の右清掃業許可申請に対する不許可の理由に、「浄化槽清掃の結果引き抜かれた汚泥の適正に処理する体系が見当たらない。右汚泥の収集、運搬については、廃棄物処理法七条の許可を必要とするが、組合では、同法六条一項の基本計画で、年々増加する浄化槽汚泥の収集、運搬に対処する必要があり、将来、浄化槽汚泥の増加によりスムーズな収集を図るため、新規業者の導入に柔軟な個別対応ができる体系を目指しているが、当分の間、現状維持により対処していきたい。しかし、浄化槽汚泥の収集、運搬の許可のある者に浄化槽汚泥の収集、運搬の委託契約がなされ、その契約書の写しが提出されれば、その旨確認のうえ可否決定する。」という理由を追記する、というものであった。

しかし、控訴人は、浄化槽汚泥の収集、運搬の許可のある者との間で、浄化槽汚泥の収集、運搬の委託契約を締結することはせず、被控訴人に対し、その契約書の写しを提出することもしなかった。

5  被控訴人の作成にかかる前記昭和六二年七月一四日付不許可通知書と同年九月一七日付の「浄化槽清掃業の許可申請による不許可に対する異議の申し立について」と題する文書等に示されているように、要するに、控訴人の本件運搬業の許可申請に対する被控訴人の不許可処分の理由は、組合は、本件区域内では、昭和五五年以来、し尿浄化槽清掃業者四社によって浄化槽の清掃を行ってきており、右四社は、本件区域内のし尿浄化槽の清掃をする十分な施設と能力を備えており、昭和六二年度においても、右四社の既存業者によってし尿および浄化槽汚泥の処理を行うこととして、廃棄物処理法六条一項の処理計画を定めているから、控訴人の本件収集運搬業の許可申請は、同法七条二項一、二号に適合しないというにあり、また、控訴人の本件清掃業許可申請に対する被控訴人の不許可処分の理由は、自ら、し尿・浄化槽の清掃によって生ずる汚泥を運搬、処理できず、かつ、汚泥の収集運搬業の許可を有する業者との間で、汚泥の収集運搬を委託する契約も締結していないから、浄化槽法三六条二号ホに該当するというにある。

三  本件運送業不許可処分の適否

1  一般廃棄物を収集、運搬、処分することは、生活環境の保全および公衆衛生の向上を図ることを目的とする市町村が処理しなければならないその固有の事務(地方自治法別表第二の(十一))であって、市町村は、自らの処理計画に従ってこれを処理しなければならないが、自らまたは委託によって処理できないときは、業者にその事務を代行させることになり、その場合、業者に対し、廃棄物処理法七条の一般廃棄物処理業の許可を与えることになるところ、右許可については、市町村長は、市町村自体による処理が困難であること、市町村の定める一般廃棄物処理計画に適合することを基準として(同法七条二項一、二号)、法の目的に照らし、当該市町村の実情に応じて、自律的、専門技術的、政策的に判断をするもので、右判断に当っては、広範な裁量権を与えられているのである。

2  したがって、愛東町外六か町の各地域におけるし尿処理に関する事務を共同して行う目的で設立された組合の管理者である被控訴人も廃棄物処理法七条の一般廃棄物処理業の許可を与えるか否かについては、広範な裁量権を有するものであるから、被控訴人の行った本件不許可処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠き、その与えられた裁量権を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、違法となるものではないと解すべきところ、本件全証拠によっても、被控訴人の行った本件運搬業不許可処分が、社会観念上著しく妥当を欠き、その裁量権を逸脱して、これを濫用したものであると認めることはできない。

3  かえって、〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められる。すなわち、

(一)  組合は、昭和四九年の設立当初は、し尿処理施設もなく、し尿等も投棄していたが、昭和五四年九月からは、し尿処理施設で処理するようになり、また、その頃から、原判決添付別紙1記載の愛犬清掃社ら四業者(既存四業者)に浄化槽清掃業および一般廃棄物(し尿)処理業の許可を与え、一貫して、し尿および浄化槽汚泥の収集、運搬、処理を右四業者に依存してきた。

(二)  昭和五五年度から昭和六一年度までの本件区域内のし尿等の処理量の推移は、原判決添付別紙3記載のとおりであり、昭和五六年度から昭和六三年度までの既存四業者の収集運搬機材等の推移は原判決添付別紙2記載のとおりである。

(三)  し尿、特に浄化槽汚泥の処理量は年々増加の傾向にあるものの、既存四業者は、設備等営業体制を大きく変えることなしに、処理量の増加に対応し、本件区域内のし尿および浄化槽汚泥の収集、運搬、処理を支障なく行ってきており、し尿および浄化槽汚泥の収集、運搬についての、住民からの苦情も、汲み取りになかなか来てもらえないというものが、年間一、二件あるに止まり、組合の毎年度の処理計画は、おおむね適正かつ順調に遂行されたきた。

(四)  組合は、右のような過去の実績をふまえ、昭和六二年度についても、し尿、浄化槽汚泥、農村下水道汚泥の年間収集量を合計二万三〇八五キロリットル(し尿一万八九九八キロリットル、浄化槽汚泥三六七三キロリットル、農村下水道汚泥九四五キロリットル)と予定し、これを既存四業者の愛犬清掃社が七七二八キロリットル(し尿五八六二キロリットル、浄化槽汚泥一八六六キロリットル)、愛知川清掃社が七三三七キロリットル(し尿六六六三キロリットル、浄化槽汚泥六七四キロリットル)、北川清掃社が七〇〇〇キロリットル(し尿六四七三キロリットル、浄化槽汚泥五二七キロリットル)、北川産業株式会社が一〇三〇キロリットル(浄化槽汚泥のみ)を、各搬入するものとして、一般廃棄物処理計画を定めている〈証拠〉。そして、前記本件区域内のし尿等の処理量の推移および既存四業者によるこれまでの処理の実績に照らし、右処理計画は適正であって、同年度のし尿等の収集、運搬、処理も、既存四業者によって十分に可能であり、新規の業者の参入を認める必要はなく、新規の業者が参入すれば、かえって、過度の競争による混乱を生じ、既存四業者の経営の安定を損ない、本件区域内の住民の生活環境の保全と公衆衛生の向上の目的を阻害する結果になりかねない。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、控訴人の本件運搬業許可申請のなされた昭和六二年当時、組合の管内の七か町の一般廃棄物の収集、運搬、処分が困難な状況にはなかったし、また、右申請は、組合の一般廃棄物処理計画に適合しないものであるから、控訴人の本件運搬業許可申請は、廃棄物処理法七条二項一号、二号により、その許可をしてはならない場合に当たるものというべきである。したがって、本件運搬業不許可処分は、適法であるというべきである。

4(一)  もっとも、控訴人は、わが国の自由主義経済体制および私的独占を禁止した独占禁止法の趣旨からすれば、許認可行政を通じて一定の取引分野において新規参入および競争を制限して、許認可の申請を不許可処分にすることは、その必要性が具体的かつ明白でない限り違法であるところ、本件運搬業不許可処分は、既存四業者の圧力により、同業者の地域独占体制の維持に手を貸すものであり、また、被控訴人は、既存四業者の保護を優先するあまり、控訴人の本件許可申請以前に、既に新規業者は許可しない方針を決定済で、控訴人の申請について、新規参入の必要性、既存四業者の営業への打撃の有無、本件区域内の業務量との関係や将来の予測等の具体的な検討をしないで、本件不許可処分をしたものであるから、仮に、右処分が被控訴人の自由裁量であるとしても、その裁量権を誤って行使したか、濫用した違法がある、と主張する。

しかし、本件における全証拠によるも、控訴人の右主張を認めることはできず、かえって、控訴人の右主張のような事実関係のないことは、前記に認定したところから明らかであるから、控訴人の右主張は採用できない。

(二)  また、控訴人は、既存四業者の過去の実績も、決して支障なく処理されてきたというものではなく、住民からの多くの不平、不満があり、各業者による地域独占が定着し、住民による業者選定の自由が失われ、必然的に業者の力が強くなり、年末やお盆休みなど早くから申し込みをしているのに来てくれないとの苦情がよせられているし、料金の面では、浄化槽清掃については、条例で料金が決定されず、業者の料金決定が自由であるため、地域間、業者間で不均衡が著しく、また、し尿汲み取りの料金は、組合の議会で条例として決定されるものの、料金値上げ申請に対しては、これに応じないと、業者の方で汲み取り拒否宣言をすることを恐れて、ほとんど値上げ申請がそのまま認められることになっていて、住民は過大な負担を強いられている、とも主張する。

しかし、右控訴人の主張事実を認めるに足りる証拠はなく、かえって、前記認定のとおり、本件区域内の住民からは、各町を通じて精々年間一、二件の苦情がある程度であり、また、料金についても、〈証拠〉によれば、汲み取り料金については、滋賀県の他地区と比べて、本件区域の料金が、必ずしも高額ではないことが認められるので、控訴人の右主張は理由がない。

(三)  さらに、控訴人は、種々の事情を挙げ、(1) 控訴人のした本件運搬業許可申請については、廃棄物処理法七条二項一号の「当該市町村による一般廃棄物の収集、運搬および処分が困難であること」、同二号の「その申請の内容が前条一項の規定に定められた計画に適合するものであること」の要件を充たしている、(2) 既存四業者の昭和六一年度の収集運搬量は、昭和五五年度の一・九倍であるから、本件運搬業許可を既存四業者に限定しておくことは、生活環境の保全および公衆衛生の向上のために許されない、(3) 控訴人の新規参入により既存の業者の経営を過度に圧迫する状況にはない、(4) 組合の処理能力の余力からしても、控訴人の本件運搬業の許可申請を拒否すべきではない、等々の主張をしている。しかし、前記三の3に認定の事実関係及び〈証拠〉によれば、前述のとおり、控訴人の本件運搬業許可申請当時、組合では、廃棄物処理法七条二項一号所定の「当該市町村による一般廃棄物の収集、運搬および処分が困難」な状況にはなかったし、また、控訴人の右申請は、廃棄物処理法七条二項二号に違反し、その内容が組合の定めた、計画に適合しないものであったと認めるべきであって、控訴人の右主張は、いずれも、その前提事実を認めることができないか、独自の見解であって、採用できない。

(四)  その他、控訴人は、当審において、本件運搬業不許可処分が不当であり、裁量の範囲を逸脱した違法があるなどとして、縷々主張するが、控訴人が指摘するような事実があるとしても、それだけでは、本件運搬業不許可処分が、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を逸脱し、これを濫用したものと認めるに足りないか、あるいは、控訴人の独自の見解であって、採用し難い。

四  本件清掃業不許可処分の適否

1  浄化槽の清掃業を営もうとする者は、当該業を行おうとする区域を管轄する市町村長の許可を受けなければならず(浄化槽法三五条)、市町村長は、清掃業の業務に関し、不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者に対しては、右許可をしてはならないのである(右同法三六条二号ホ)。

ところで、浄化槽清掃業の通常の営業形態では、し尿浄化槽を清掃した者は、清掃の結果、引き抜いた汚泥を自分で運搬して処分しなければならないから、廃棄物処理法七条の一般廃棄物処理業の許可を得ているか、そうでなければ、その許可を得ている業者に委託するなど、その汚泥の運搬、処分の方法につき確実な方策をもたない限り、実際上し尿浄化槽清掃業を営むことはできないことになる。したがって、一般廃棄物処理業の許可を得ていない者が、し尿浄化槽清掃業の許可申請をしてきた場合には、その許可を得ている業者に委託するなど、その汚泥の運搬、処分の方法につき確実な方策を有しない以上、これをその場に放置するか、不法投棄することになりかねず、公衆衛生上不適法な行為に出るおそれが強いものとして、浄化槽法三六条二号ホの欠格事由に該当し、その申請を不許可にするほかはないものといわなければならない。

2  本件においては、前記認定のとおり、控訴人は、本件運搬業の許可を受けられない者であるから、自ら汚泥を運搬、処理することができず、また、控訴人において、浄化槽汚泥の収集、運搬の許可のある者と浄化槽汚泥の収集、運搬の委託契約を締結するなど、その汚泥の運搬、処分の方法につき確実な方策をとることをしなかったものであるから、結局、控訴人は、浄化槽法三六条二号ホの欠格事由に該当するものというべきである。

したがって、本件清掃業不許可処分も適法であるというべきである。

五  なお、控訴人は、営業の自由は憲法二二条によって保障される基本的人権であるところ、浄化槽清掃業についても、営業の自由が保障されるべきものであるのみならず、浄化槽清掃業の許可については、浄化槽法三六条の要件を充足している限り、必ず許可すべき拘束を受けるものであるから、浄化槽の清掃に必然的に伴う汚泥の収集運搬業についても、営業の自由を保障した憲法の精神に従って、法の許す限りこれを許可すべきであり、抽象的、観念的な法解釈や既存業者の既得権保護の目的から、控訴人の許可申請を不許可とすることは憲法二二条に違反し、許されない等、種々の主張をして、本件各不許可処分は、憲法一三条、二五条に違反し、無効であるなどと主張する。

しかし、営業の自由は、憲法二二条によって保障される基本的人権であるけれども、公共の福祉のための合理的制限を受けることはやむを得ないところ、本件においては、前記認定のように、控訴人が、廃棄物処理法あるいは浄化槽法に定める要件を充足しないために、本件各不許可処分を受けたものであるから、右各不許可処分は、何ら憲法二二条に違反するものではない。

また、控訴人主張の如く、浄化槽清掃業の許可申請については、浄化槽法三六条の要件を充足しているところからこれを許可すべき場合には、廃棄物処理法七条に基づく廃棄物の収集、運搬処分の事業についても、これを許可すべきであるとすれば、明文の規定もないのに、浄化槽法三六条の許可を主とし、廃棄物処理法七条の許可をこれに付随する必然的なものとすることになり、右各許可を別個の法律に定めた法の建前に反することになって、不合理である。このことは、昭和五三年までは、当時の廃棄物処理法七条の許可については、厚生省令で定める場合にはこの限りでないという例外規定があり、同法施行規則二条二号により、右同法九条一項の許可を受けた浄化槽清掃業者が浄化槽汚泥の運搬を行う場合には、廃棄物処理法七条一項の許可を要しないとされていたのに、右規定は、昭和五三年八月一〇日、厚生省令五一号により廃止されたことからも、明らかというべきである。のみならず、控訴人主張のように解すれば、浄化槽清掃業の許可をすることによって、市町村の一般廃棄物処理計画の変更が必要になるなど、逆に、処理計画が制約を受けることになり、し尿浄化槽が一般家庭に普及したことに伴い、旧廃棄物処理法施行規則二条二号を廃止することにより、市町村の処理計画との整合性を図ることにした新廃棄物処理法の趣旨に反することになって、不当であるといわなければならない。控訴人の右主張は、独自の見解であって採用できない。

さらに、本件各不許可処分が、単に、抽象的、観念的な法解釈や既存業者の既得権保護の目的のみで行われたものでないことは、前記認定の右不許可処分がなされた経緯と事情から明らかである。そして、本件区域内の既存四業者によるし尿等の処理について、住民の苦情が多いとはいえず、住民が特に不利益を被っているものともいえないことは、前述したとおりであって、仮に、控訴人の指摘するような事実があったとしても、前記認定のような経緯と事情のもとに行われた本件各不許可処分が、住民の幸福追求の権利や、健康で文化的な生活を営む権利を侵害するものであって、憲法一三条、二五条に違反し、無効であるとはいえない。

したがって、控訴人の右主張は理由がなく、その他、控訴人が、本件各不許可処分が違法であって、取り消されるべきであるとして主張するところは、いずれも独自の見解であって、採用できない。

六  以上の理由により、本件清掃業不許可処分および本件運搬業不許可処分は、いずれも適法であって、その取消を求める控訴人の本件請求は理由がないから、失当として棄却すべきである。よって、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 後藤勇 裁判官 高橋史朗 裁判官 小原卓雄)

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